私たちは、ふだん何気なく「聴く」という行為をしています。しかし、本当に人を理解し、信頼を育むための「聴く」は、ただ音を耳に入れることとは違います。
本物の「聴く力」とは──相手の存在そのものを受け止め、心に触れるように聴く力です。
このセッションでは、「聴く」とはどういうことかを改めて整理し、傾聴の基本スキルである「受容」「共感」「理解」の三本柱を学んでいきます。
「聞く」と「聴く」は違う
日本語には、
- 「聞く」=音が自然に耳に入る
- 「聴く」=意識を向けて耳を傾ける、という二つの表現があります。
ここで学ぶのは、後者の「聴く」──意識をもって、相手の存在そのものに耳を傾ける態度です。
- ただ情報を受け取るだけでなく、
- 相手の気持ちや背景、存在感に触れるように耳と心を開いていきます。
聴くために必要な3つの基本
本当に聴くためには、次の3つが柱となります。
1.受容 ― まず「受け止める」
相手が何を話しても、まずは否定せず、評価せず、受け止めること。たとえ意見が違っても、「あなたはそう感じたんだね」と、存在ごと受け入れる。
受容は、相手に「ここにいていい」という安心感を与えます。
2.共感 ― 相手の気持ちに寄り添う
受容のうえに、相手の気持ちに寄り添う姿勢を持つこと。「あなたは悲しかったんだね」「そんなに悔しかったんだね」、言葉にしても、しなくても、相手の感じていることを自分の心にも映していく。
共感は、「わかってもらえた」という深い安心感を生みます。
3.理解 ― 相手の世界を知ろうとする
単に言葉をなぞるだけではなく、相手の言葉の背景にある価値観、経験、思いに、静かに想いを馳せる。相手の立場になりきることはできなくても、「あなたの世界はどんなふうに見えているのか」を理解しようとする態度が大切です。
理解しようとする努力が、信頼関係の架け橋になります。
「聴く」とは、心を開いて相手を迎えること
聴くとは、
- 相手の話の正しさを判断することでも
- すぐにアドバイスをすることでも
- 無理に答えを出してあげることでもありません。
ただ、そのままの相手を、受け止めようとすること。
聴くとは、心を開き、相手の存在を静かに歓迎する行為なのです。

聴いてもらえた体験を振り返る
あなた自身の体験を思い出してみましょう。
【自分への問いかけ 】
- 誰かに「本当に聴いてもらえた」と感じた場面はありますか?
- そのとき、相手はどんな態度であなたに接してくれていましたか?
- あなたは、どんな気持ちになりましたか?
書き出してみると、「本当に聴く」とは何かを、あなた自身の感覚で思い出すことができるでしょう。

本当に聴くためには、受容・共感・理解という、シンプルだけれど奥深い3つの力が必要です。
聴くとは、
- 相手の存在を受け入れること
- 相手の感情に寄り添うこと
- 相手の世界を知ろうとすること
それは、誰かの心に、小さな温もりの種をまくことなのです。
次の講義では、この3つの柱をさらに具体的に【言葉】と【感情】の両方を受け止める聴き方に進んでいきます。