聴くとは、ただ耳で言葉を拾うだけではありません。
聴くとは、相手が伝えようとしている言葉だけでなく、その奥にある感情、さらには、存在感やエネルギーまでも、まるごと受け止めようとする行為です。
このセッションでは、
- 相手の言葉と感情を受け止めるための基本姿勢
- 実際に役立つ具体的な傾聴スキル、をわかりやすく学んでいきます。
なお、あらかじめ言っておくと、後のセッションで詳しく学びますが、「受け止める」は自分の中に「受け入れる」のとは違います。
言葉は「表面」 感情は「奥にある本音」
私たちはふだん、相手の言葉だけを表面的に受け取ってしまいがちです。
しかし、多くの場合、言葉の裏には、不安、怒り、悲しみ、喜び、といった感情が隠れています。
たとえば──
- 「大丈夫」と言いながら、うつむいている
- 「平気」と笑いながら、声が震えている
こうした「言葉と感情のズレ」に気づくこと。それが、本当に相手を理解する第一歩です。
言葉と感情を受け止めるために大切なこと
1.評価や判断をせず、そのまま受け取る
相手の話しを、評価や判断を加えずに、まずはそのまま受け取ります。「何を伝えたいのか」を素直に聴き取る姿勢が土台になります。
2.感情の「温度」を感じ取る
声のトーン、話し方、間(沈黙)、表情、仕草……こうしたサインに意識を向け、相手の内側にある感情を感じ取ろうとします。
どんな気持ちで話しているのか? 言葉にならないエネルギーは何を語っているか? 静かに感じる心を育てます。
3.非言語メッセージを受け止める
人は言葉以外にも、姿勢、視線、呼吸のリズム、身体の開き方・閉じ方など、たくさんのメッセージを発しています。耳だけでなく、心と身体全体で聴く意識を持ちましょう。
基本の傾聴スキルと、使える言葉例
ここからは、実際に役立つ傾聴の具体的なスキルを紹介します。
1.うなずき・短い相づち
相手が話しているときに、うなずいたり、短く反応することで、「ちゃんと聴いています」という安心感を伝えます。
【 使える言葉例 】
- 「うん」
- 「そうなんですね」
- 「なるほど」
- 「それは……つらかったですね」
2.オウム返し(リフレクション)
相手の言葉を、そのままか、少しだけ変えて繰り返す技法です。「ちゃんと聴いている」「理解しようとしている」というメッセージになります。
【 使える言葉例 】
- 「仕事が忙しくて大変だったんだね」(→「忙しくて大変だったんだね」とオウム返し)
- 「不安で眠れなかった」(→「眠れなかったくらい、不安だったんだね」)
オウム返しは、相手の感情にも寄り添う形で行うと、さらに効果的です。
3.言い換え・要約(パラフレーズ)
相手の話を、自分の言葉でやさしく言い換えて返す技法です。
【 使える言葉例 】
- 「つまり、こういうことなんですね」
- 「要するに、あなたはこう感じているんですね」
相手の意図や感情を尊重しながら、コンパクトにまとめるのがコツです。
4.感情へのフィードバック
相手の言葉だけでなく、感じ取った感情も言葉にして返します。
【 使える言葉例 】
- 「それは、本当に悔しかったんだね」
- 「怖かったんだね、きっと」
感情を受け止めてもらえることで、相手の心がより深く開かれます。
5.開かれた質問(オープンクエスチョン)
「はい/いいえ」で答えられない問いかけをして、相手の内面を引き出します。
【 使える言葉例 】
- 「それについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?」
- 「そのとき、どんなふうに感じましたか?」
好奇心と尊重の気持ちを持って、相手のペースを大切に聴きましょう。
聴くときに心がけたいこと
- 急がない
- 結論を急がない
- ジャッジしない
- 相手を直そうとしない
ただ、「あなたは今、そう感じているんだね」とそっと受け止める。それだけで、相手の心に深い変化が起こることもあります。

オウム返し・感情フィードバック
小さな練習をしてみましょう。
【 自分への問いかけ 】
- 最近、誰かと話したときに「オウム返し」や「感情のフィードバック」を試せそうだった場面を思い出してみましょう。
- もしできるなら、短い例文で、自分がどう返すかを書いてみましょう。
実際にイメージするだけでも、傾聴の感覚は磨かれていきます。

聴くとは、言葉を聴くだけでなく、感情を聴き、存在を受け入れること。
傾聴の基本スキルは、あなたの温かい心を、相手にやさしく届ける道具です。焦らず、少しずつ、自然に使いこなしていきましょう。
次のセッションでは、さらに──無意識レベルで信頼を育てるラポール形成について学んでいきます。